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盛岡地方裁判所一関支部 昭和50年(ワ)27号 判決 1975年12月08日

主文

被告は原告金今和子に対し金四二四、一七〇円、同金今寛に対し金九一、五六〇円の各支払いをせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、それぞれ原告金今和子において金一四〇、〇〇〇円、同金今寛において金三〇、〇〇〇円の担保を供したときは、当該原告の関係部分について、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告ら

主文同旨の判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決ならびに担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二、当事者の主張答弁

一、原告ら(請求原因)

(一)原告金今和子(以下「原告和子」という。)は昭和四八年一二月二四日岩手県東磐井郡川崎村薄衣字諏訪前の県道上において、その夫である原告金今寛所有の自動車に乗車中、被告の従業員である訴外鈴木正勝運転の普通乗用自動車に衝突され、三ケ月以上の入院加療を要する肋骨々折の傷害を負わされた。

(二)右交通事故に関し、原告両名と株式会社である被告(実際に契約締結行為をなしたのは被告会社摺沢出張所長大久保行二)との間に、昭和四九年五月二四日次のような約定が成立した。

(1)被告は原告和子に対し医療費金三〇〇、〇〇〇円、同人の休業補償費金三〇、六〇〇円、付添看護料金三七、三〇〇円、育児補償費金一九四、〇〇〇円、雑費金三五、二七〇円、慰藉料金三二七、〇〇〇円の合計金九二四、一七〇円を支払う。

(2)被告は原告寛に対し同人所有自動車の修理代金一二、〇〇〇円、同人の休業補償費金七九、五六〇円の合計九一、五六〇円を支払う。

(3)右金員はいずれも同年一二月三一日までに原告方に持参して支払うものとする。

(三)従つて、被告は右約定に従い、原告らに対し右各金員の支払いをなすべき義務を負うものであり、仮に前記大久保行二が被告会社摺沢出張所長でなかつたとしても、被告会社が同人にそのような名称の使用を許していた以上、右約定金についての支払義務を負うべきところ、被告は、その後原告和子に対し医療費金三〇〇、〇〇〇円を支払つたほか、前記(二)(1)の内金として昭和四九年八月三一日金一〇〇、〇〇〇円、同年一〇月一五日金一〇〇、〇〇〇円の合計金二〇〇、〇〇〇円を支払つたに過ぎない。

そこで被告に対し、原告和子は右の残額金四二四、一七〇円、原告寛は右金九一、五六〇円の各支払いを求める。

二、被告

(一)請求原因(一)の事実は不知、その余の原告ら主張事実は否認。

(二)原告ら主張の約定は、訴外鈴木正勝と原告和子間あるいは、右鈴木の使用者である訴外大久保行二を加えた三者間でなされたものであつて、被告のなんら関知するところではない。

被告と訴外大久保とは、いわゆる元請、下請の関係もなく、単に被告は右大久保の要請に応じて、同人に被告の名義を貸していたに過ぎず、業務上の指揮監督の関係は全くないのであるから、被告には原告ら主張の示談金を支払うべき義務はない。

原告らは当初被告に対し示談金を請求する根拠がないと考え、その意思表示をしておらず、原告ら主張の内金五〇〇、〇〇〇円も被告以外の者から受領していた。ところが、前記訴外鈴木および同大久保の所在が不明となり、或いは死亡が判明したため、両名に対する請求が不能となり、筋違いにも被告に対しその支払いを求めてきたものである。

第三、立証(省略)

理由

原告金今和子、同金今寛各本人尋問の結果ならびにこれによつて真正に成立したものと認められる甲第一ないし第三号証によれば、原告和子は昭和四八年一二月二四日岩手県東磐井郡川崎村薄衣字諏訪前の県道上において、訴外鈴木正勝の運転する普通乗用自動車に衝突され、三ケ月の入院治療を要する肋骨々折の傷害を負つたこと、右交通事故に関し、昭和四九年五月二四日原告両名と大宝商事株式会社摺沢出張所長を名乗る訴外大久保行二(同人がその相手方であつたことは当事者間に争いがない。)との間に、大宝商事株式会社摺沢出張所が原告和子に対して請求原因(二)(1)記載の金員を又原告寛に対して請求原因(二)(2)の金員をいずれも昭和四九年一二月三一日までに支払う旨の約定がなされたこと(なお、契約書の文言上では右各金員すべてを原告和子に支払うことになつているが、そのうち原告寛個有の損害である請求原因(二)(2)の金員は同原告に支払う約定であつた)が認められる。

そして、被告が右大久保行二に対しその名義(商号)を使用して営業することを許していたことは被告もこれを認めるところであり前顕各証拠と証人石川達哉の証言によれば、右大久保行二は、被告とは別個の経営主体であつたが、東磐井郡大東町摺沢字街道下三の二三において被告会社の商号である大宝商事株式会社の大東町出張所名義で事務所を開設し、同出張所長の肩書を用いて営業を行つていたこと、原告らは右大久保より同人が大宝商事株式会社大東町出張所長であると告げられその旨の肩書を記載し、本社(被告会社)の住所、電話番号を付記した名刺を受領したことや、右大東町所在の事務所に赴いた際同所に大宝商事株式会社大東町出張所(その所在地が大東町摺沢であるところから摺沢出張所とも呼ばれていた。)と記載した看板が掲げてあつたことから、同人が真実被告会社の右出張所長であると信じ、その背後に本社としての被告会社の存在を前提とし右出張所を相手方として前記交通事故に関するいわゆる示談契約を締結したものであることが認められるのである。

そうだとすれば、被告は右大久保行二に自己の商号を付した大宝商事株式会社大東町出張所名義での営業を許していた以上これを信じ同人と前記約定を締結した原告らに対しては、商法第二三条に則り、これによつて生じた債務を弁済すべき義務を負うものというべきである。(右約定は交通事故についての不法行為による損害賠償責任の存在を前提として締結されたものではあるが、その契約締結それ自体は一種の取引行為として商法第二三条の適用を受けるものである。)

以上のとおりであるから被告に対し、原告和子が請求原因(二)(1)記載の金九二四、一七〇円から既に被告より支払われたとする金五〇〇、〇〇〇円を差引いた金四二四、一七〇円、原告寛が請求原因(二)(2)記載の金九一、五六〇円の各支払いを求める本訴請求は、いずれも正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用し、なお、被告が仮執行免脱の宣言を求める点は、本訴請求が交通事故により蒙つた原告らの損害回復を目的とする約定にもとづいてなされていることにかんがみ、これを付すことは相当でないと思われるので却下することとし、主文のとおり判決する。

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